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海洋化学

海洋化学は、海洋環境における元素の分布とそれを支配している因子,海洋で起こっている諸現象を化学的手法で理解する基礎的な学問です。今日、二酸化炭素など温室効果気体による地球温暖化や化学物質汚染等、さまざまな地球規模の環境破壊が進行しており、一刻も早く将来の地球環境を予測することが求められています。海洋における生物を含む物質特性の把握と海洋を中心とした物質循環機構の解明を行い、地球環境保全に果たす海洋の役割を化学的側面から解明することが海洋化学研究の大きな目標と言えるでしょう。本ページでは、現在最も関心を集めており、研究も急速に進められている地球温暖化問題と海洋の物質循環について説明します。

1980年代に入ってから、世界の国々で大洪水や干ばつ、そして暖冬といった異常気象による被害が多く見られるようになりました。これらの現象は人間活動によってもたらされた二酸化炭素等の温室効果気体による地球温暖化に原因があるのではないかと考えられています。二酸化炭素の海洋への吸収量の正確な見積もりは地球の気候環境がどう変わっていくか予測するのに必要不可欠なものであり、世界中の多くの海洋学者は、増加する二酸化炭素を海洋がどのようにそしてどれくらい吸収したり放出したりしているか、生物や物理過程をふくめた炭素を中心とする物質循環の定量的な解明に、近年研究が進められています。

地球表面での炭素は、そこに生息する生物とその環境が維持されるため、もっとも重要な元素の一つとして知られています。炭素は二酸化炭素だけではなく、一酸化炭素、メタン、炭素イオン、重炭酸イオン、遊離炭酸、炭酸塩鉱物や生物を含む有機物質として存在しています。大気−海洋間の二酸化炭素の交換量は年間に900億トン程度と言われています。現在では化石燃料とオイルシェールの燃焼によって放出される二酸化炭素と、大気中の二酸化炭素増加量との差から海洋が二酸化炭素を年間20億トン余分に吸収していると言われています。大気−海洋間の二酸化炭素交換量は、大気と海洋の二酸化炭素分圧の差、水温や塩分によって決まる溶解度、そして気体の交換速度によって見積もられます。南大洋や北半球高緯度の冬は風が強く、表層水は夏に比べて深いところまでよくかき混ぜられ、気体交換が活発で短期間のうちに平衡に達します。炭酸飲料水をそっと置いておくよりもゆするとたちまち気が抜けるのと同じ原理です。赤道域では深層の二酸化炭素分圧の高い水が湧昇して二酸化炭素が大気中へ出て行き、植物プランクトンの光合成が活発な海域では海水中の二酸化炭素を取り込んで有機物として固定するために表層海水中の二酸化炭素分圧は下がり、その結果大気中からの吸収が増えると言われています。このように海洋での二酸化炭素交換には、表層水の循環や水温、風速といった物理的要因と、そこでの生物活動に伴う生物・化学的要因が大きな役割を果たしています。

海洋表層では光の届く範囲に栄養塩(窒素、リン等)の供給があると、植物プランクトンは水と二酸化炭素から光合成を行い、有機物を作ります(1次生産あるいは基礎生産と呼ばれます)。その9割近くは表層内で分解され、再び水と二酸化炭素に戻りますが、分解されなかった死骸や破片は中・深層水へ沈んでいきます。これらの死骸や破片は、有機物沈降粒子として深海へ運ばれて表層から除かれるため、その不足した溶存無機炭素を補う形で、大気から二酸化炭素が溶け込みます。このような海洋表層から深層への炭素循環の移行過程を生物ポンプと呼びます。

以上から海洋は地球温暖化の原因となっている二酸化炭素の吸収場として重要であり、その吸収過程では植物の光合成による無機炭素の有機化と生物ポンプによる有機物の深層への輸送が重要な役割を果たしていることがわかります。打ち上げ間近となったADEOS-U搭載のGLIOCTSの成果を引き継ぎ、多チャンネルデータや250mの高分解能の機能を持ち、海洋植物プランクトン濃度、基礎生産量の推定及びその変動解析が可能となります。地球温暖化問題に関連する炭素循環研究に大きな貢献が期待されています。

参考文献:海と環境(日本海洋学会編, 2001)
地球観測研究センター 地球観測研究センター
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